大麻の栽培と利用


大麻復活の理由


大麻は、繊維を取る目的で、紙を作る目的で、そして食料を得る目的で第二次世界大戦前までは、世界中で栽培されていた。一方一般的にマリファナと呼ばれている大麻樹脂は、痙攣や不眠の治療薬として医薬品として売られていた。当時は、大麻は、現在の日本人が考えているような悪魔の植物ではなく、ごく普通の有用な植物であった。ところが、アメリカ政府は、合成繊維の普及をはかるために、その競争相手である大麻製品に税金をかけ、大麻産業を壊滅させることで、合成繊維産業を発展させようとした。今から考えれば無茶な話で、化学工業を発展させるために、天然物産業を壊滅させたのである。今なら、汚染物質を作り出す化学工業より、地球をきれいにする天然物工業の方が重要であることは明らかである。

アメリカ南部のメキシコ系住民は、リラックスするために熱帯産の大麻の葉(マリファナ)を日常的に吸っていた。これを見た一部新聞が、人種差別的な見地から、マリファナは、麻薬のように社会を堕落させる薬物であると言うキャンペーンを展開した。即ち、白人社会でマリファナが蔓延したらメキシコ人の様な低レベルな社会になると言う論調を展開した。その頃すでにアメリカでの大麻栽培が行われなくなっていたので、予算カットに直面していた麻薬取締局は、大麻を禁止薬物にしても経済に影響がでないと判断し、密かに大麻取締法を国会に提出した。大麻樹脂を医薬品として使用していた医師や患者から反対が出たが、大麻産業自体が、消滅していたので、この法案が成立してしまった。その結果、大麻は、悪魔の植物になり、栽培することも吸飲することも禁止された。

第2次世界大戦が終わりアメリカにより占領された国々では、占領軍により大麻取締法が制定され、日本でも昭和23年に大麻取締法が施行され、大麻を栽培することも所持することもできなくなった。

戦前の人々は、アメリカや日本のような温帯地方で栽培される大麻には、大麻樹脂の量がわずかで、それを吸っても精神作用が起こらないこと、精神作用を得るには、idica種と言うインドやアフリカなどで栽培されている樹脂が多く含まれる大麻でないと効果がないことを良く知っていた。その為、中国、ロシア、フランス、ハンガリー、ルーマニア、インドなど多くの国々では、大麻取締法などなく今でも大々的に栽培されている。国連農業機構(FAO)の調査によると、1992年に世界で大麻を作付けした面積は、26万ヘクタールにのぼると発表されている。これらの国では、テトラハイドロカンナビノール(THC)の含量が0.3%以下と規定されているが、これらの地方(インドなど熱帯の国を除く)で栽培される大麻には、この数値以上のTHCを含有する大麻がもともと存在しないからである。

アメリカが大麻取締法を各国に制定していったおかげで、最も利益を得たのは、フランスである。イギリスも含めた西側ヨーロッパ諸国で大麻を栽培していたのは、フランスだけであったので、EUでの貿易協定の結果、フランスは、独占的に大麻を栽培し、その生産物をEU内の各国に独占的に販売できた。EU各国で、麻製品を作るには、原料をフランスから買う以外に方法が無かった。

当時イギリスでは、麻の繊維を家畜の敷きわらとして利用していた。麻の繊維を家畜のベットに利用すると肉が美味しくなると言う効果があったので、イギリスの農民は、大麻を栽培したかった。その結果、イギリスの農民により、1993年に大麻の栽培を解禁する運動が起こった。この運動が発生した後すぐに、一部農民が集団で大麻の栽培を開始した。最初に栽培された600ヘクタールの農地で出来た大麻は、フランスの規格である0.3%以下のTHCしか含んでいなかった。その為、イギリス政府は、大麻取締法で農民を処罰する根拠を失ってしまった。大麻を栽培する農民に対してイギリス政府は、非公式に道路から見えないところで栽培してほしいと要請するだけであった。イギリス政府も大麻取締法の矛盾に気づいていたからである。イギリスでの大麻栽培は、徐々に拡大していった。家畜の敷きわらとして使われ、残った繊維は、製紙原料として販売された。

このイギリスの動きをカナダの農民も見ていた。1994年カナダの農民は、イギリスから大麻種子を買い、栽培を開始した。最初に作付けされたのは、20ヘクタールであるが、この作付けに使われた種は、カナダ政府がうっかりと輸入を許してしまった物であった。カナダの人々は、カナダで大麻が栽培されるようになったことを喜んだ。カナダとアメリカが北米自由貿易協定を締結した結果、アメリカの安い繊維が大量に流れ込みその結果カナダの繊維産業が壊滅的な打撃を受けたからである。カナダの人々は、大麻を栽培して麻の繊維や布をアメリカに輸出することでカナダの繊維産業が復活すると考えた。なぜなら、アメリカには、大麻取締法があり、大麻を栽培できないからである。このように非合法ながら農民が勝手に大麻を栽培し始め、その大麻も他の国では合法的に栽培できる大麻樹脂をほとんど含まない種類であった為に、イギリス政府もカナダ政府も栽培を禁止する根拠を失い、1998年に大麻の栽培を合法化した。 ドイツでは、イギリスで栽培が開始されたのを受けて、1995年に栽培が解禁された。続いて、オーストラリアとニュージーランドにおいても2002年に合法化された。アメリカでは、大麻の栽培を解禁することを問う裁判が行われている。政府が、この裁判にまければ、大麻の栽培は、解禁されるだろう。日本での解禁は、さらにその後になるだろう。


大麻の栽培


大麻は、手間のかからない作物で栽培しやすい。病気や害虫に強く、それほど肥料も必要としない。ヨーロッパでは、荒れ地に適した作物と言われている。大麻は、約110日で成長して収穫される。収穫期に入ると葉は枯れて落ち、落ちた葉は、腐葉土となり土地を肥やす。大麻の根は、地中深く張っているので土地を柔らかくしてくれ、土中に空気が通りやすくなり、細菌が繁殖しやすくなる。収穫後の根は、すぐに腐ってしまい有機肥料になる。大麻は、4-5mも成長するため、太陽が根本にあたらず、その為雑草が生えない。当然除草剤など必要としない。むしろ大麻が除草剤の役目をしている。

大麻を収穫した後の土地は、腐葉土が行き渡った耕しやすい柔らかな土で、雑草がまったく生えていない土地である。だからすぐに耕して次の作物を植えることができる。ヨーロッパでは、大麻は、冬に植えられることが多い。そして、夏には、穀物や野菜などが植えられている。特に豆科の植物を植えると肥料を使わずに土地を肥やしていくことが出来る。日本では、稲作が終わった冬に大麻を植えると良いと思われる。大麻は、丈夫なので、ある程度成長すると少々の雪でも倒れることが無いので降雪地帯でも栽培できる。通常は、密に輪作すると病気の発生が多くなったり、地力が衰えて収穫量が落ちると言われるが、大麻と輪作すると害虫や病気の発生が少なくなると共に地力が上がり収穫量も増えると言われている。


大麻の利用方法


大麻の利用法は、種子を食料にすることと、茎の繊維を利用する2種類の方法がある。現在では、品種改良が進み、種子を取る大麻と茎を取る大麻では、品種が違う。繊維を取る大麻は、4-5mの高さまで成長するが、種子は、小さく味が悪い。ヨーロッパでは、繊維を取る目的で栽培されているので、種子は、鳥の餌にされている。種子を取る目的の大麻は、せいぜい2mぐらいにしか成長しないが、種子は、大粒で味が良い。しかし、両方の品種とも、種子も茎も利用されている。

稲を栽培する場合、米を取ることが目的で、藁や籾殻は捨てられている。昔は、藁は、縄や米俵を作るのに利用されていたが、今では見向きもされない。ほとんどの藁は、カットされ堆肥として畑にばらまかれている。ところが、大麻は、種子を食料として利用出来るだけでなく、稲の藁にあたる茎が、繊維原料、製紙原料、建築原料として利用できる。葉や根は、すぐに腐って有機肥料になり破棄する部分が無い便利な作物である。大麻は、ほとんどすべての気候、土地で栽培できる。ほとんどの土地で4-5m(繊維用)の高さに110日で成長し、1ヘクタールから8-20トンの乾燥した茎が取れる(繊維用)。

大麻の茎は、外側に篩部繊維と呼ばれる長い繊維(セルロース)があり、この繊維の長さは、茎の高さと等しく、セルロースの含有量は、60-78%になる。中心部は、短い繊維(セルロース)とヘミセルロース、リグニンから出来ている堅い組織で、セルロースが36-41%、ヘミセルロースが31-37%、残りがリグニンである。

建築材料にファイバーボードと言うのがある。これは、木材などの繊維を化学処理などしてバラバラにし、再度樹脂で接着して板状にした物である。繊維が均等に分布しているため。均一な強度を持っているため建築材料として利用しやすい。大麻の繊維は、茎の高と同じ長さを持っているため、木材を利用するより長いファイバーボードを作ることが出来る利点を持っている。

麻の布を作るのに利用されるのは、表面にある篩部繊維である。麻で作られた布は、衣服は勿論、壁紙、袋、靴など多くの用途を持っている。麻を繊維として利用する利点は、綿花の使用を減らすことが出来ることである。綿花は、換金作物として各地で栽培されているが、この作物は、多量の水を必要とするため、大規模な灌漑施設が必要である。ロシアのアラル海と言う湖は、綿花栽培の灌漑のため年々縮小していっておりこの地方の気候が変化するという大きな問題を抱えている。又、綿花は、収穫を良くするために、肥料や農薬を多く使う必要が有り、土地が汚染されやすい。綿花が大麻と違う大きな点は、綿花は食料にはなり得ない。その為、綿花の栽培地では、食料不足が発生しやすい。

大麻の中心部は、主として製紙原料として利用されている。大麻の品種の中に白い大麻が栽培されている。この品種は、製紙原料だけを目的とした大麻で、その利点は、漂白が簡単行えるからである。大麻は、1年草で毎年生長を繰り返す。大麻が産生する繊維の量は、木材の4倍と言われている。大麻を製紙原料として利用することで、森林破壊を防ぐことが出来る。大麻紙は、1996年で年間12万トン作られており、その種類は、タバコの紙、ろ紙、ティーバッグの紙、アート紙、お札の紙などである。現在では、ヨーロッパで茎を繊維原料とパルプ原料に効率よく分ける機械が出来ており、木材を製紙原料にするより大麻を製紙原料にした方が安くつくので、大麻の利用が徐々に多くなっている。1ヘクタールから取れる乾燥した大麻の量は、平均15トンで、それを繊維原料や製紙原料として販売したときの収入がUSドルで1000ドルと言われている。100ヘクタールぐらい栽培している農家は、北米などにはたくさんあるので、その収入は、10万ドル(約1200万円)にもなる。日本でも、休耕地や冬季の無耕作地などで栽培すると十分な収入になると考えられる。

大麻の種子の製品には、種子全体、中の胚乳だけ、種子から取ったオイル、オイルを絞った絞りかすの4種類がある。種子全体を食べる場合は、火を通して煎った状態にして食べる。そのままスナックの様にして食べても良いし、パンやお菓子に入れても良い。非常に香ばしい風味で美味しい。殻を取った胚乳を食べる場合もパンやお菓子に入れて食べる。胚乳だけの場合は、ナッツの風味になる。胚乳はすりつぶすとオイルを多く含むのでペースト状になる。水を加えて攪拌すると乳化して牛乳の様なミルク状になる。そのまま飲んでも良い。ここに増粘剤を入れて凍らすと大麻アイスクリークが出来る。又、にがりなどを入れると大麻豆腐になる。大麻胚乳は、大豆と同じ様な使い方が出来ると考えってもらって良い。大豆より繊維質が少ないのでおからはあまりでない。

胚乳を取り扱う上で注意することは、密封状態で暗い場所に保管することである。冷蔵庫などが最も良い。胚乳には、多量の油分が含まれていて、その油は、ほとんどが不飽和脂肪酸である。不飽和脂肪酸は、空気中の酸素により酸化され過酸化脂質に代わりやすい。酸化を受けると油の腐った様な味になるので保管に注意がいる。

種子を絞ると油が出てくる。この油が大麻油である。種子の重量に対して35%の油を取ることが出来る。1ヘクタールで取れる種子の量は、平均で1.25トンであるから、1ヘクタールから440リッターの油を取ることが出来る。この収量は、菜種やひまわりなどに比べると若干すくない。しかし、大麻の場合、絞りかすを食用に利用できるから、菜種やひまわりより利用価値が高い。大麻油は、勿論食用油として利用できる。しかし、不飽和脂肪酸が多く含まれるので加熱する調理に使うと変質しやすいので避けた方が良い。サラダドレッシングのように熱を加えない方法で食べるのが最も良い。品質を保持するためには、空気に触れないように密封して保存しなければならない。大麻油が最も多く使用されているのは、化粧品原料としてである。それは、不飽和脂肪酸が皮膚を健全に保つために必要だからである。又、大麻油は、燃料として使われてきた。大麻油は、ディーゼルエンジンの燃料となるので、これを使った自動車レースが行われているらしいが、軽油に比べて、まだまだ割高である。 大麻油を取るために絞った大麻種子の絞りかすを粉砕して粉にした物が大麻粉である。大麻粉は、小麦粉の食味の改良剤として使用される。小麦粉に大麻粉を1-2割混ぜることで、非常に香ばしい味になる。だから小麦粉を使っているすべての食品の味を変えることが出来る。このように4種類の製品を食品に利用することで今までと違った食品を作り出すことが出来る。

参考文献
The great book of Hemp; Rowan Robinson, Park Street Press, Rochester Vermont
Hemp for Health; Chris Conrad, Healing Arts Press, Rochester, Vermont


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マリファナの歴史